 
昔からある地形を活かすと、
人が活きる。
渋谷には23の坂がある。長崎からするとあまり比較にもならない坂がこれだけある。一番身近なのは「道玄坂」であろう。日本中のほとんどの人がこの名前を聞いたことがあるだろうし、今でもここは坂であることがよくわかる。決して道路は広くないが大きなケヤキが規則正しく植えてあり、近くには地元有志が花壇として使うことができる植栽がある。道玄坂商店会理事長とお話をしたときこんなことを言っていた。 「昔は植栽をしても、若者がすぐ抜いたり、寝転んだりして、ぐちゃぐちゃにされちゃってね。
でも最近は、きれいになったままなんですよ。やっぱり緑に対する関心が高くなってきたんじゃないかなぁと思っています。」若者の街渋谷では、決して歓迎されなかった側面もあったが、今ではオトナになったというのかもしれないし、オトナになったから緑への関心という、社会事情にもついていけるようになったのかは、ここに毎日通うにもよくわからないままだ。
もう一つ聞いたことのある坂に、「スペイン坂」があるかもしれない。この坂は、朝と夜の顔が全然違う。朝は昨夜の路上でやっていた若者宴会の余韻やカラスの食事の跡があったり、清掃車が狭い坂をバックで入れて、昨夜の宴の幕引きをしていたりする。これが夜になると、すれ違うにも気を使うほど人でいっぱいになり、路面など気になる余地もないほど、店の装飾が奇麗に光ってくるのだ。「スペイン」という名前の由来や詳しい姿はネットに委ねるとして、実はどちらの坂にも共通しているのは、圧倒的に上る人が多いということだ。
どういうことかというと、渋谷の地形的特徴でもあるが、中央駅となるJR渋谷駅が繁華街の最も低い所にあるからだ。渋谷を訪れた人はその欲望を満たすために、低い場所から高い場所へ登っていくのである。このような導線は、太古からある地形そのものであり、人間が人工的に作ったものではないところが、一番の渋谷の特徴である。銀座や新宿にはこのような特徴がない分、地形がフラットなので導線は作られたものになり、飽きないようにめまぐるしく変えなくちゃいけない。しかし渋谷は、地形と人が導線を創り出すことができるのでバリエーションが豊富なのだ。そうすると、地下鉄なのに駅がビルの3階にあるといった、奇妙なおもしろさができるのである。
長崎にはこんな言葉がある。「長崎を変えるのはヨソモノ、ワカモノ、バカモノ」渋谷には若者が多い。そして彼らが文化を創り出し、わきだした文化に引きづられて店ができる。チョイ昔の渋谷の若者は、植栽を抜いたり、花壇に寝転んだり、宴会をしたりと馬鹿な事をしていた。そしてこの若者は大抵、渋谷区民じゃない。
この町を見ていると、長崎のこれからを見るためのたくさんのヒントがあると思う。そうしたら先日、長崎でカラスがごみを漁るシーンに出くわした。これほど共通する心当たりが多い町も珍しいと思う。
渋谷の道玄坂を登りきった近くには円山町という昔の花街がある。つい先日まで芸者置屋があり、それを円山検番といっていた。こんな話は、道玄坂やスペイン坂を聞いたことがある人でもなかなか知らないかもしれない。
文/松嶋範行
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